無効な遺言が、有効な手掛かりに
山田和範さん(仮名)は、妻のマツさん(仮名)と二人暮らしでしたが、先日、マツさんを残して亡くなられました。相続人は、妻のマツさん・長男・二男の3人です。
山田さんとマツさんは、晩年の再婚であったこともあり、マツさんと他の相続人の関係は希薄です。また、マツさんには子供はおらず、身寄りは遠方の兄弟だけでした。
当初、長男・二男は、マツさんを遠方の兄家族に引き取ってもらい、遺産分割に関しては、マツさんには遠慮してもらおうという意見も出ていたようです。しかし、マツさんや兄家族もすでに高齢であることもあり、思い悩んでおられました。このような相談内容をお聞きした私には、分割協議が難航するのでは・・・と思いました。そんな折、身の回りの品を整理されていた二男の方から連絡がありました。
「利き腕を事故で無くした父親が、懸命に書いた直筆の遺言のようなものが出てきました。その書面を兄と読んで、マツさんにも遺産を引き継いでもらったうえで、親子の間柄として暮らしていくことに決めました。」とのことでした。
誓約書
今般、山田和範と山田マツの結婚に際して、後日の為にこの誓約書を交わすものとする。
私が没したる時、土地家屋の名義は長男のものとする。
土地家屋を除く他の遺産については、長男・二男とマツがそれぞれ三分の一ずつ取得する。
山田家一族は、マツを含め、排他的感情を持つ事なく、相互良く話し合う明るい人間関係を保持し、未来永劫の繁栄を構築するよう努力するものとす。
この各項については、私の遺言とす。
上記の通り、誓約する。
実際にその書面を拝見しますと、日付・押印がなかったので、遺言としては「無効」でした。
しかしその書面は、利き腕を失った方とは思えない力強い筆跡で、何より、家族を思う気持ちに溢れていました。皆さんが、二つ返事で書面中の分割案を了承されたのも頷けます。
遺言としての「法的拘束力」が無くても、お手紙としての強力な「心理的な影響力」は、時に法的拘束力を超える力がある。そういうことを改めて考えさせられました。そして、このご家族に関しては、必要以上に「無効」という言葉を使うのを止めようと思いました。
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