遺言書の有効性
相談者、田中明日子さん(仮名)は、被相続人である夫の和夫さん(仮名)と二人暮らしでした。明日子さん夫婦には子供がなく、和夫さんのご両親もすでに亡くなられたとのこと。「おそらく、相続人は明日子さんと、和夫さんのご兄弟になると思われます。」とお伝えしたところ、「たしか兄弟は何人かいたと思ったけれど、ほとんど面識がありません。」とのことでした。
さらにお話を聞いてみると、和夫さんは自筆証書遺言を残していることがわかりました。中身は見てしまったとのことで、財産の一切を明日子さんに相続させる旨の内容でした。
まずは、検認手続きを行うために戸籍を集めて調べてみると、和夫さんのお父さんである源三郎さん(仮名)は、2回ご結婚されて各妻との間に子供がおり、また内縁関係の方との婚外子もいることが判明しました。
その結果、相談者を含めた相続人の数は10人以上もの数になり、さらにその中の2人はアメリカとシンガポールに移住して連絡がなかなか取れない状況にあることがわかりました。
ご兄弟との面識がほとんどなかった明日子さん。相関図を作成し、進捗状況をお伝えすると大変驚いておりました。明日子さんは「夫はこのような状況になることを察して、遺言書を残してくれたのですね。」と、自筆遺言書を残して逝去された夫に感謝しておりました。
その後、裁判所での検認手続きと遺言執行者の選任手続きを終え、和夫さんのご兄弟と争うこともなく、各相続財産の名義変更手続きもスムーズに進み、明日子さんはホッとされておりました。
相続手続きを終えて、今回の事例で不安に思ったことが2点あります。
1つは、自筆遺言書であることです。どんなに気を付けたとしても、自筆遺言書は、名前、日付、印鑑、保管要領等にほんの少し間違いがあった場合でも無効になってしまう可能性が高くなってしまいます。
もう1つは遺言書をすでに開封してしまったことです。今回の事例では争いがありませんでしたが、すでに開封してしまった場合、「改ざんをしたのでは?」と疑われてしまう可能性が高くなってしまいます。
これらの不安点を無くすため、遺言を作成するなら、なるべく公正証書遺言で作成することがより安心のできる解決策ではないかと考えます。公正証書遺言は専門家と一緒に手続きを行うため、無効となる心配はほとんどなく、また、原本の保管は公証人が行うため、改ざんを疑われる心配がなくなります。
兄弟姉妹には遺留分がありません。よって、子供がいない夫婦の場合、確実に執行することの出来る遺言書を作成することが、いかに大切であるかを学びました。
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